真空パック詰め食品の保存温度は十分確認しましょう!(ボツリヌス食中毒予防について)
令和7年1月、ボツリヌス菌による食中毒が発生し、入院した患者は全身の麻痺症状などの重い症状が見られました。このような事例は、全国で令和3年、令和4年、令和6年にもそれぞれ1件発生しており、いずれも家庭で発生しています。主な原因は、真空パックなど密封包装された要冷蔵の食品を誤って常温で保存したことや、家庭で調理する際に十分に加熱しなかったことがあげられます。
このような、保存方法を誤解しやすい食品については、見やすい箇所およびサイズで「要冷蔵」、「10℃以下で保存してください」などと表示されることになっています。
備考:「レトルトパウチ食品」又は「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」と記載されているものは常温保存可能です。

食中毒の発生原因
真空パックなど密封包装された食品は、その外観から常温で保存できると誤解しがちです。しかし、中には、冷蔵で保存する必要があるものも存在します。こういった要冷蔵品を誤って常温で保存すると、「無酸素状態」と「適当な温度」というボツリヌス菌が非常に好む環境が揃うことで、食品中でボツリヌス菌が大量に増殖し、ボツリヌス毒素を大量に産生することになります。
食中毒の原因となるボツリヌス毒素は、80℃で20分又は100℃で1から2分間の加熱で不活化されるため、食べる前に十分に加熱することも効果的です。しかし、電子レンジで加温する程度では不十分な場合があります。

ボツリヌス菌の特徴
ボツリヌス菌は、酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌で、土壌や海、湖、川などに広く分布しています。
ボツリヌス菌は、熱や乾燥に強い「芽胞(がほう)」と呼ばれる状態になることで、厳しい環境下でも長く生き延びることができます。ただし、芽胞のままでは増えることはできません。
ボツリヌス菌の芽胞は、酸素が無い状態で発芽・増殖を起こし、その際に毒素を産生します。そのため、殺菌が不十分な瓶詰、缶詰、真空パック詰め食品などの空気が少ない食品を常温で保存すると、ボツリヌス菌が食品中で増殖し、これらの毒素が含まれた食品を食べることにより、食中毒を引き起こします。

症状
症状は、食べてからおよそ8時間から36時間で、初期症状として吐き気・おう吐・下痢などの消化器症状に加え、特徴的な症状として、脱力、倦怠感、めまいなどの神経症状が見られます。症状が進むにつれて、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、言葉がでなくなる(構音障害)、四肢の麻痺などが起こります。重症の場合、呼吸筋が麻痺し呼吸困難になるため、人工呼吸器を装着し、抗毒素(血清)療法等を行うことになります。適切な治療がなされないと死に至ることもあります。適切な治療を行っても、症状が1か月間以上続き、回復に1年近くかかる場合もあります。
数ある食中毒菌の中でも、ボツリヌス菌が持つ「熱に強い」、「神経症状を起こす」、「致死率が高い」といった特性は、おう吐や下痢などの消化器症状を主症状とする他の食中毒菌とは大きく異なるため注意が必要です。

予防法
ボツリヌス菌による食中毒予防には次のポイントを押さえることが重要です。
【既製品を購入した時】
- 正しい保存方法で保存すること
- 真空パックや缶詰が膨張していないか確認すること
- 開封時に異臭がしないか確認し、異臭がした場合は食べずに廃棄すること(一口だけでも危険です!)
- 食べる直前に十分に加熱すること
【調理する時】
- 新鮮な食材を用い、よく洗浄すること
- 食品は十分に加熱すること
- 加熱後は素早く冷却し、冷蔵庫(3℃未満)や冷凍庫(マイナス18℃以下)で保存すること

参考資料

1歳未満の乳児にはハチミツを与えないで!

乳児ボツリヌス症とは?
食品内で増えた「ボツリヌス毒素」を摂取することによっておこるボツリヌス食中毒とは異なり、「ボツリヌス菌(芽胞)」で汚染された食品を乳児が食べることで、ボツリヌス菌が腸管内で発芽・増殖し、腸管内で毒素を産生することによっておこるとされているのが乳児ボツリヌス症です。
症状は、便秘が数日間続き、全身の筋力低下、脱力状態、哺乳力の低下、泣き声が小さくなる、特に、顔面は無表情となり、頸部筋肉の弛緩により頭部を支えられなくなるといった症状を引き起こすことがあります。ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに亡くなることもあります。

なぜ1歳未満の乳児だけ発症するの?
大人の場合、ボツリヌス菌の芽胞が体内に入っても、他の腸内細菌との競争に負けてしまいます。しかし、生後1歳未満の乳児においては、腸内環境が成人とは異なり、腸管内でのボツリヌス菌の定着と増殖が起こりやすいことが原因と考えられています。
そのため、1歳未満の乳児にはボツリヌス菌の芽胞に汚染される可能性のあるはちみつやはちみつ入り食品(パンやお菓子など)を食べさせるのはやめましょう。
生後1歳以上になると、離乳食等により腸内環境が整う時期となるため、ハチミツを避ける必要はありません。