くらしの中の食品衛生
Aさんの1日を参考にして,日ごろの食品衛生について考えてみましょう。
8月12日・・・
明日の法事に備えてAさんは近くのスーパーへ買い物へ。そこでマグロ、ハマチ、イカの刺身を5人前ずつ、アジ5尾、それに野菜、豆腐、卵を買いました。帰宅途中に中学校の同級生のBさんにばったり出会い、1時間ほどの立ち話をして、家へ。Aさんは帰宅するとすぐに明日の下ごしらえにかかりました。肉じゃがをつくりかけたところで、魚と豆腐を冷蔵庫に入れ忘れていた事に気づき、あわてて冷蔵庫へ。それから、卵をゆでて、卵サラダを作り冷蔵庫へ入れました。肉じゃがができ、室温まで冷えたところで冷蔵庫へ入れました。次に、魚の下ごしらえ。アジのウロコ、はらわたを取り除いて明日煮付ければ良いところまで処理し、冷蔵庫へ。それからすぐに一夜漬けの漬物を作るために魚を処理した包丁とまな板を少し洗い、野菜を切って準備は整いました。
法事当日もAさんは大忙し。刺身を皿に盛り付けて、アジを煮付けて、肉じゃがを炊きなおして,冷奴とAさん自慢の一夜漬けと卵サラダを仕上げて完成。法事の後にみんなでおいしく食べました。
ここで、バイキンが好むことが5つあります。それは・・・
(1)1時間の立ち話
魚に付着した「腸炎ビブリオ」は適温(37~40℃)でどんどん増えていきます。
注)腸炎ビブリオは海水に存在し、漁獲時に魚介類に付着して家庭内に入ります。低温に強く高温(加熱)には弱く、また塩分を好む菌で、真水(水道水)には弱いです。サルモネラ、黄色ブドウ球菌と比べて増殖スピードが2倍程早く、短時間で食中毒を起こすことが可能な菌数まで増えます。魚介類を取り扱うときは、注意が必要です。
(2)帰宅するとすぐに明日の下ごしらえ
帰ってきたらすぐに手洗い。「黄色ブドウ球菌」などの細菌、寄生虫もついているかも知れません。
注)黄色ブドウ球菌は、主に手指の化のう巣、毛髪、口や鼻や耳の中に存在し、手洗いは食中毒予防に不可欠です。黄色ブドウ球菌は、嘔吐や下痢をおこす毒素型の食中毒菌で、一度毒素を産生すると「煮ても焼いても食えない」やっかいな菌です。特に手指にキズがあるときは要注意です。
(3)魚を冷蔵庫に入れ忘れる
冷蔵庫を過信するのは良くありませんが、室温(気温)が高いとき、特に生物は購入後速やかに冷蔵することが大切です。冷蔵庫は、70%くらいの収納が限界で、詰め過ぎると冷蔵能力が低下します。また、冷蔵庫内での魚、肉、卵などの使用区分も明確にしておく必要があります。
(4)前日からの卵料理
卵や肉類は、動物の腸管などに潜むサルモネラ菌に汚染されていることがあります。サルモネラ菌の食中毒では、下痢や嘔吐、発熱がおこります。人体の中に入ると健康であるにもかかわらず保菌する、いわゆる「健康保菌者」になることもあります。中には少ない菌数で食中毒を引き起こす強力な菌種もあるので、取扱いには注意が必要です。加熱後長時間おいてから食べる事は避けましょう。
(5)魚の処理の後、野菜を切る
まな板、包丁に限らず、ボール、皿などの食品別使い分け、また仕上用、下ごしらえ用の用途別使い分けも必要です。色ビニールテープで目印しておくと便利です。
つぎは、Cさんの1日を通して考えてみましょう。
10月10日体育の日・・・
今日は息子の運動会。早朝からCさんは弁当づくりで大忙し。昨日包丁で指を切ったところに「ばんそうこう」をはって、痛みを我慢しながら手も洗わず作りました。
運動会のメニュー
- 三角おにぎり:ホカホカのご飯におかかと食中毒予防のまじない「梅干」を具にしてたくさん作りました。
- ポテトサラダ:前日スーパーで購入しておきました。
- エビフライ・鶏のから揚げ:中心まで熱が通るように充分加熱しました。
- ウインナーソーセージ炒め:時間がなくなり加熱はほどほどにしました。
- 厚焼き玉子:半熟のほうがおいしいので、半熟にしました。
大きな弁当箱がなかったので2つに分けて詰めました。1つ目はおにぎりと厚焼き卵、もうひとつにウィンナーソーセージとエビフライ、鶏肉の唐揚げ、ポテトサラダ。
昼食ではおにぎり(梅干)2個と厚焼き卵2切れ、ポテトサラダ少々が残ってしまいました。もったいないのでCさんは持って帰る事にし、お弁当箱に残してリュックに直しておきました。
帰宅してすぐにお弁当箱のまま冷蔵庫へ収納し、夕食の足しにおにぎり、厚焼き卵、ポテトサラダを食べました。
さて、ここにもバイキンが好むことが5つあります。それは・・・
(1)傷のある手で調理
黄色ブドウ球菌は指の傷に潜み、おにぎりで活躍します。
注)梅干で食中毒菌の増殖を抑制することや死滅させることはありません。ラップやビニール手袋を使用するなど、食中毒菌を食品に付けないよう衛生的に調理することを心がけましょう。
(2)卵の半熟
かちかちに焼いた卵焼きはおいしくないかもしれませんが・・・卵はサルモネラ菌の最大の活躍の場。熱には弱いが半熟では死にません。
注)大多数の食中毒菌は加熱によって死滅してしまいます。また、菌によっては卵の殻のようなものを作り、100℃で30分加熱しても死滅しないセレウス菌やボツリヌス菌もいます。
(3)ポテトサラダとフライを一つの容器に入れる
冷たいものと熱いものをいっしょに入れてしまうと、冷たいものがあたためられて食中毒菌が増えてしまいます。
注)お弁当などの容器に詰めるときは、常温まで冷ましてから詰めるように心がけることが、食中毒を予防することにもなります。野菜や井戸水等にはふん便由来の食中毒菌、病原大腸菌が存在することがあります。井戸水は使用せず、水道水で手や野菜や食器器具類は充分に洗浄することが大切です。
(4)残りの弁当をリュックに詰めておく
菌がたくさんいるお弁当を日光のあたる暖かい場所へ長時間置いておくと危険です。早朝から夕方まで暖かいところにあれば、セレウス菌は1個が100万個~1000万個にまで増えてしまいます。腸炎ビブリオ菌は、約10分に1回の分裂で4時間後には1600万個になります。このように、いかに保存状態が大切であるか、お解りでしょう。行楽に出かけるとき、クーラーボックスに冷たいジュースと弁当をいっしょに入れておいたり、ちょっと日陰に置いておくだけでも大分違います。
(5)残りのお弁当を持って帰って食べた
食中毒菌は100万個で、人間に食中毒症状を起こすといわれています。残ったお弁当は思い切って捨てましょう。せっかくの楽しい行事なので、お弁当の中毒で病院には行きたくありませんよね。